太郎雑記

つれづれなるままに、よろずのことについて語ります

今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑥

決算書から見る経営の成功と失敗 - 01.粗利益と経営の失敗事例

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前回までの投稿で、決算書とは何か、読者の皆さんにはだいたいご理解頂けたかと思います。

でも、これだけでは脱サラ開業を目指す方に「経営の怖さ」を十分に伝えるほどのインパクトはまだまだ足りません。私の目的は、脱サラ開業を目指す方に「ちょっと待った!」をかけることですから、もう少しリアルな話をしていこうと思います。

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というわけで、今回から「決算書から分かる経営の成功例と失敗例」と言うテーマに入ります。まずは前回ご説明した粗利益の数字で、経営の成功と失敗の各事例を見ていきましょう。

 

(イ)粗利益(売上総利益)= 売上高 - 仕入高(期首商品+当期仕入高-期末商品)

 

(ロ)粗利益率 = (売上高-仕入高)÷ 売上高 × 100(%)

 

また出てきましたね...、粗利益(率)の計算式。

ただし経営者ならば、いつもこの粗利益(率)のことが頭にないといけません。

まず(イ)の式について考えますが、もし実際の経営において、売上より仕入の金額が大きければ、それは大問題です。なぜなら、営業をすればするほど、赤字を垂れ流す状態になるからです。

さすがに年間を通して粗利益の逆、粗損失を出しているような飲食店はそうそうありません(1年を待たずに潰れます)が、月次・日次で帳簿を締めると、往々にして粗損失の発生は起こりえます。

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例えば、よく見かけるお酒・ドリンク飲み放題のイベント。

あるお店が、食事代とは別にお酒・ドリンク(何でも)飲み放題を、おひとりさま3時間1,500円で設定したとします。

そこへやってきた、ビール大好きオヤジグループ。

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上の画像のようなおっさんがビールを飲みまくりました。するとどうなるでしょう。

一般的に中ジョッキは435mlです。缶ビール350mlにちょっと多いくらい。

ですから、仕入価格にして250円程度になります。

もしおっさんが6杯以上飲んだら、利益が出ません。損失を出してしまいます。

そういう事態を避けるには、制限時間を2時間以下、またはビールは3杯まで、もしくは料金を3000円に再設定することで、リスクを抑えます。

まあ、利益還元イベントなら別ですが、飲み放題にビールを積極的に投入するのは非常にリスキーと言ってよいでしょう。水割り・お湯割りが前提の焼酎、元々原価が安い梅酒、またはゆっくり飲むのが““通“”なワインを投入するのがベターだと思います。

 

しかし、上の例でもお分かりのとおり、ビールを3時間でジョッキ6杯呑む方と言うのはなかなか稀です。よほどダンピングみたいな価格設定をしない限り、粗損失と言うものは発生しにくいのかもしれません。

むしろ起こりやすいのは、食材の仕入れをたんまりしていたのに、アテが外れてお客様が誰も来なかったというケースです。

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突然のゲリラ豪雨など自然災害発生時。そして昨今、多くの飲食店を苦しめている新型コロナ感染症拡大に伴う自粛ムードの広がり。

こういう事態に直面した場合、飲食店は本当にキツいです。

長引けば長引くほど、食材はどんどんダメになってしまい、(イ)の式は

 

売上高(0円)- 仕入高(50万円)= ▲50万円

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みたいになります。

開業希望の方にはものすごい冷や水になったかもしれませんね...。でも、こういうリスクは何の前触れもなく、ある日突然、平然と起こります。それを覚悟のうえで、先輩たちは戦っているわけですね。

ちょっと暗い話になりましたが、リスクをお分かりになって頂いたところで、粗利益以上に重要な、粗利益率について次章ではお話しして参ります。

今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑤

そもそも決算書って何だろう? - 03.青色決算書を紐解く

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青色申告決算書第1表

さあ、いよいよ青色申告決算書を使って経営のナマの数字を検証していきましょう。

上の画像が青色申告決算書です。これはフェイク決算書ですので、細かいところは不確かな数字が入っていますが、まあそこはお見逃しください。

まず、左上の売上、および仕入れの欄を見ていきます。

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①は年間の売上を示します。この決算書の主は飲食業を仮定していますので、③の仕入れは肉、魚、野菜、油、調味料などの食材のことをさします。

では、②の期首商品とは何でしょう?さらに⑤の期末商品とは......。

そもそも決算書は、ある会計期間の収入と支出を記録したものです。個人企業であるならば、途中開業や途中廃業でない限り、会計期間は必ず1月1日~12月31日になります。

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食材の仕入れも当然、1月1日~12月31日の間で行われたものが記録されていますが、果たしてそれだけでしょうか。

開業し立てでない限り、店主は前の年の在庫も食材として使っているはずです。

さすがに生肉や刺身は危険ですが、マヨネーズや味の素、乾燥麺などは長期にわたって使いますよね。昨年の4月に買ったものでも普通に活用します。

こうした在庫の引継ぎを、会計上、「期首商品」と言います。

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では逆の発想。12月31日時点で使わずに余ってしまった食材があるとします。これは仕入れに含めるか含めないか。

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答えは含めません。使わなかったものは仕入れから除かなければならないのです。

この除かなければいけない年末の在庫を「期末商品」と言います。

以上、仕入れてかつ消費した食材(商品)を確定する時には次の式を用います。

 

期首商品+当期仕入高-期末商品=売上原価

 

おそらく簿記の授業で見たことがある式だと思います。

すなわち、去年から引き継いだ在庫+今年仕入れた商品が、今年売り物として確保した商品。そこから売れなかった、使わなかった商品を取り除いて金額化したのが「売上原価」なのです。

簡単に言うと、売上原価とは売れた商品に要したコストとなります。

 

(例)カフェバースズキは、昨年1年間で食材と酒、合わせて404万円で仕入れました。なお、前々年の在庫16万円も引き続き使用し、結果、年末最終営業日に22万円の未使用在庫があることが分かりました。

 

上記を読み解くに、カフェバースズキが昨年1年間で確保した仕入れ商品のうち、売り物として消費された商品の金額は、

404万円+16万円-22万円で、398万円となります。

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では、ここでさらに飛躍。

カフェバースズキのこの年の儲けはいくらでしょう。

それは、①の売上額1070万円から上の計算で得た398万円を引いた672万円が答えです。かなり割のいい商売ですね。

一般的に、672万円のような差引数値のことを粗利益(あらりえき)、売上総利益と呼びます。

売上から食材コストなどの商品仕入れ額を引いて得た利益のことです。

しかし、営業上はコックさんやウエイターさんの給料、調理のための水道光熱費、レストランの家賃なども費用として考えますから、そういった諸々を勘案して利益を導き出さなければなりません。それについては後日述べます。

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ここで大事なのは、粗利益をどうやって高めていくかです。

分かりやすく言えば、1杯10円のドリップコーヒーを500円で飲んでもらうことができれば最高じゃないですか。

それは、コーヒーを淹れる店員さんの技術、お店のサービスに対する評価=490円なわけです。

一般に、こうした評価は売上高-仕入の数字で表すのではなく、(売上高-仕入)÷売上高で表します。上の例で言えば、490÷500で0.98、すなわち98パーセントです。

これを粗利益率、売上高総利益率と言います。

同時に、単に仕入÷売上高を原価率と言います。上の例で言えば2パーセントです。

飲食店で言えば、原価率が30%なら優秀。35%ならまあまあ。

※言い換えれば、1000円のランチの材料費が300円(30%)ということです。

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ただし最近では、原価率45%とか50%でも好業績を叩きだす業者さんもいらっしゃいます。他の生産性を高めてなるべく美味しい素材をお客さんに食べてもらおうという思考が主流になりつつありますので、このあたりは経営について勉強し、それなりの経験を積まれてからチャレンジするとよいでしょう。

今回は長くなりましたので、この辺で終わります。

次回は、この粗利益率・原価率に的を絞り、美味しいものをいかに安く提供し、かつ儲けるかの戦略についてお話しして参ります。

今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ④

そもそも決算書って何だろう? - 02.青色決算書を読む

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前の章で述べました通り、個人事業主は毎年3月までに、前年1月~12月までの会計情報を記録した決算書を作成し、税務署に提出しなければなりません。

あなたがもし開業するのであるならば、同様にこの決算書なるものを作成しなければいけないことは覚悟しておいてください。

www.nta.go.jp

しかし、今から開業を目指す段階の方であれば、この決算書を今のお勤め先から入手して、教材として使うのが吉でしょう。まあ8割がたムリですが......。

 

(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?

 

ちょっとビックリしたか、お怒りになった方もいらっしゃるでしょう。

これには理由があるんです。

実は、決算書と言うのは相当濃厚な個人情報と言えます。会社と関係ない第三者が決算書を入手し、儲かってると分かれば猛烈な営業攻勢をかけてくるでしょう。

また、苦しい資金繰りが分かれば、金融業者のファックスあたりが舞い込むかもしれませんね。

さらに、内部の社員であっても、赤字続きでやばいと分かったら、見切りをつけて逃げるかもしれませんし、儲かっているのに自分の給与が低いと、会社忠誠心は下がってしまいます。

普通の経営者なら、決算書は自分と役員、主要取引先、税理士以外に見せることはまずありません。

 

ただし、上場企業など会社決算を公告しなければいけない会社もあり、そうした企業の決算書はネット上に公開されています。

www.irstreet.com

 

上記サイトには大手企業の決算公告、決算短信などが掲載されており、読めるのであればこんなに企業の決算情報が詰め込まれたものはありません。

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しかし、これらが読めるのであれば、あえて上記サイトから決算書を引っ張らなくとも、すでに自分で決算書が「書ける」レベルにあると思います。

このブログの目的は、(特に飲食店の)個人開業をめざす方に経営の初歩を学んでもらうことですから、上場企業レベルの決算書作成・読解知識を求めるものではありません。

ですから、個人事業主が作成する青色申告決算書で以て、「うまくいく経営・ちょっとヤバいかもな経営」を一緒に考えていきたいと思います。

次回から、具体的に決算書を読んでいきましょう。

 

今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ③

そもそも決算書って何だろう? - 01.確定申告について

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前章では、脱サラ開業を目指す方に冷や水を浴びせるような投稿、「まずは決算書を読めるようになりなさい!」とエラそうに主張したわけですが、そもそも決算書とは何でしょうか。

このブログの読者にはサラリーマンだけでなく、学生の方や主婦の方もいらっしゃると思いますから、ここで簡単に説明したいと思います。

 

さて、事業を始めるにあたって、創業者は必ず最寄りの税務署に「開業届」を出さなければなりません。

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なぜ市役所ではなく税務署かと言いますと、一般的には誰がどこで何を開業しようと自由なのですが、税金だけは漏れなくしっかり納めて頂かないといけない。そこで国が義務として「私は事業を始めますので、ちゃんと申告しますね」を宣言する開業届の提出を創業者に求めているわけです。

これを出した方は、毎年3月15日まで(暦により多少前後します)に「確定申告」をしなければなりません。

2月頃にテレビを見ていると、芸能人やスポーツ選手が「確定申告を忘れずに」とPRするCMをよく見かけますよね。アレです。

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しかし、「確定申告」とは何かと問われれば、特に若い世代の多くの方はご存じないかもしれません。分かりやすく実例を挙げておきましょう。

サラリーマンやアルバイターをやっていると、給料日に「196,800円」とか「7745円」とか、すごく中途半端な金額を渡されると思います。

それは言うまでもなく、健康保険や失業保険、税金を引かれているからです。

ちなみに、その引き算作業をやっているのは会社の経理担当者。自分で計算することはまずありません。そのため、日本の給与所得者は納税意識が薄いと海外から指摘されることがあります。

ところが独立してしまうと、自分の税金の計算なんて誰もやってくれませんから、事業主自ら計算するか、経理担当者を雇うしかないのです。

 

 

 

ただし、会計は想像以上に手間がかかりますので、会計ソフトを利用したり、税理士に依頼するなんてことも普通に行われています。

そして、納税は毎月行う必要はなく、個人なら12月31日、法人なら所定の決算日に帳簿を締め、申告期限(個人3/15、法人は決算後2ケ月以内)までに申告書と決算書を税務署に提出します。これが、いわゆる確定申告です。

※なお、今回は個人事業主の開業をテーマとしておりますので、個人の申告書類・決算書について説明します。

 

㋐確定申告書B

青色申告決算書

今回注目してほしいのは㋑の青色申告決算書です。これこそ、私が初っ端から言い続けている決算書のことで、次章からこの「決算書」の初歩的な読み方について勉強していきたいと思います。

 

今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ②

開業をする前に決算書を読みましょう

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前回お話ししました通り、今お勤めの会社への不満から退職し、新しい事業にチャレンジするのは絶対にやめてくださいね。

 

ほぼ80%失敗するからです。

 

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現状の殻を打ち破りたい気持ちはわかるのですが、サラリーマンの目線と経営者の目線は違います。特に、会社の決算書に一度も目を通したことがない、または中身を完全に理解していないような方は、なぜ自分の給料が安く抑えられたままなのか、おそらく自問したことさえないでしょうから、開業すべきではありません。

 

(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?(。´・ω・)?

 

おそらく、みなさん「エッ?」て感じでしょうね。

私が何を言っているのか分からない方も多いことでしょう。

 

そしてこう思われた方が多いはずです。

「決算書なんて現場に顔も出さない税理士が作っていて、ただ単に数字を並べ書きしただけ。大事なのは現場だよ。泥臭い営業と商品の中身がすべて。」

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な~んてことを思っていませんか?

確かにそれは「真理」です。

いくら見栄えが良くて、きっちり管理された決算書を作っていても、経営内容が赤字だったら何の意味もありません。

座って決算書を眺めていてもモノは売れませんから、工場で緻密に作業する人、外で必死に汗をかきながら営業する社員が絶対に絶対にエライのです。

 

じゃあ決算書なんて関係ないじゃないか。はよ開業させろ、という話になりますが、

「ちょっと待ってください」

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話は思いっきり飛躍しますが、ここで戦国時代のことを考えてみましょう。

織田信長武田信玄上杉謙信と言った群雄が割拠した時代。あれだけ激しい弱肉強食の世の中、果たして腕っぷしの強い者だけが生き残ることができたでしょうか?

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答えは否です。

勝者には軍師や参謀、そして有能な「会計係」が常に付いていました。いま金庫にどれくらいのお金があるのか、部下を食わせる兵糧は足りるのか、鉄砲は買えるのか、借金は返せるのか、次の年の年貢はどれくらいに設定すればよいのか。

そういうやり繰りを、会計係は常に把握し、主君に情報提供していました。そうした会計情報を最大限に生かし、天下に覇を唱えたのが織田信長であり、豊臣秀吉だったわけです。

 

これから百戦錬磨の経営者の先輩たちを敵に回し、海千山千のお客様方を相手に商売を始めようとしているあなた。

あなたが今、挑もうとしていることは、ずばり戦(いくさ)です。

 

KKD「経験(KEIKEN)、勘(KAN)、度胸(DOKYOU)」だけで戦地に飛び込むなんて、フル○ンで敵陣に斬り込むようなもの。それは犬死と言います。

ですから、まずはあなたが今お勤めの会社の決算書を手に入れ、経営情報を読み取ることから始めましょう。これは経営者になるための、無料でできるレッスンです。

 

会社財産が今いくらあって、そのうちすぐに使えるのはこれくらい。

年間の利益目標がこれくらいだから、給料は払える。しかし、賞与はどうかな。。。

設備投資が必要だ。あ、それなら銀行にも借りなくちゃいけない。

そしたら、商圏の拡大に力を入れないと収支が回らなくなる.....。

 

社長や役員は常にこういうことを考えています。考えていなければ、放漫経営、会社はつぶれます。そんな会社にはとっとと見切りをつけるべきですが。

 

とにかく、現在仕えている社長と同じ程度に決算書から「経営の今」を読み取ることができれば、あなたは経営者としてのスタートラインに立った、と言って良いでしょう。

 

それでは、次回は決算書の仕組みと経営への影響について採り上げてみます