太郎雑記

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今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑨

決算書から見る経営の成功と失敗 - 04.人件費の二つの顔 

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前章で、人件費は売上原価でもあり、販管費でもあると述べました。

 

これについては、「?」な方も多いでしょう。

ただし、高校や大学で「工業簿記」を学ばれた方なら、私が申していることは多少理解頂いているかもしれません。

 

 

工業簿記の考え方では、生産現場と事務現場の経費を完全に分けます。

例えば縫製工場では、材料の布は製造原価という項目に入れ込みます。製造原価は売上原価と同じと思って頂いて結構です。そして、縫製にあたる労働者の給与、工場の水道光熱費は、事務員の給与、事務所の水道光熱費から切り離し、この製造原価に入れるという手続きを取ります。

ですから、同じ社内の人件費でも、工場労働者の給料は製造原価に、事務員の給料は販管費に振り分けるという結果になるわけです。

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工業簿記を採用する製造業は非常にシビアなので(でなければ倒産してしまいます)、単に材料原価だけでなく、その商品を生産するのに投じたすべてのソース(人件費、経費)を漏れなくコスト化するのが大原則です。

それにより、モノ1個当たりの利益や生産性と言ったものが、より正確に測れるようになります。

さて、こういう経理の考え方は今まで製造業で行われていましたが、最近では飲食サービス業でも採り入れられるようになりました。

しかし、実際は工場のように部門が分かれているわけではありませんし、人員もせいぜい5人未満です。よって、一般にFLコスト計算式というものが用いられます。

 

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難しく感じるでしょうが、FLコストは簡単に言えばF=food(原価、材料費)とL=Labor(人件費)を足した費用ということです。

これを売上高で割ったものがFL比率。

いくら仕入れ値が安く、粗利益率が良くても人件費が垂れ流しになっていたら赤字になってしまいますから、堅実な経営を志す場合はFL比率を常に計算できるようにしておいたほうが良いでしょう。

なお、前章までに何度か、原価率は30%前後に抑えてねと言いましたが、人件費は20%以下が望ましく、結果、FL比率は50%前後に抑えるのが理想的と言われています。

 

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例えばカレー1杯900円のコストが250円だとします。これがある日、3時間で10杯、9,000円売れました。その間、時給800円のバイト君1人がしゃかりきに働いてくれたとします。

とした場合、FLコストは

F=250×10=2,500  L=800×3=2,400  F+L=4,900

FL比率は54.4%となります。まあまあといったところでしょうか。

ただし細かく見ると、原価率は27.7%と良い数字なのですが、人件費率が26.6%とお高め。じゃあ調整しようか、ということになっても、コストカットできる仕入と違い、最低賃金の問題や集客の不確実性もありますので、なかなか打つ手は少ないと思います。

 

こういったことから、近年ではなるべく機械化を進めて人員を抑制し、レイバーコストを圧縮しようという動きがみられるようになりました。

例えば、券売機の設置。客席にオーダー用タブレットを置くことにより、注文聞きの人員を減らす。自動調理機の導入で厨房の人員を減らすなどの取り組みが行われたりしています。

 

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こうした取り組みは今後、豊富な資金力を持つ大手チェーン店が積極的に行い、AI導入=人件費の削減がスタンダードになってくることでしょう。そうなれば、我々の想像をはるかに超えて飲食店の環境変化が起こると思います。

 

一方で、中小零細店にはそのような設備を導入する資金的余力は乏しいですし、また店主と店員さんの魅力、活気が集客の源になっている場合もあります。

ですから、FLコストに敏感になりながらも、中小ならではの細やかな創意工夫でこれまでどおりのスタイルを貫くというのも、私はアリかなと思っています。

ただどうしても、設備の導入をしなくてはいけないという場合は、国の補助金もありますから、活用してみられるのも良いかもしれません。ただし、申請のハードルは高く、仕事の傍らに書類に取り組むのは困難なため、企画・作成は専門のコンサルタントに依頼される方が良いでしょう。

 

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