今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑦
決算書から見る経営の成功と失敗 - 02.粗利益と経営の成功事例
(イ)粗利益(売上総利益)= 売上高 - 仕入高(期首商品+当期仕入高-期末商品)
(ロ)粗利益率 = (売上高-仕入高)÷ 売上高 × 100(%)
前章では(イ)の粗利益について見ましたが、今回は(ロ)の粗利益率について考えます。
粗利益率は、経営上とても大切な概念です。これを疎かにすれば、常に経営は赤字体質になりますし、あまりとらわれすぎるとお客様から支持されない店になります。
それだけ難しい概念ですが、何はともあれ、一例を挙げて見ていきましょう。
上は適当にお借りしてきたイラストです。見たままで上の定食の原価をはじいてみます。
◎ごはん・・・1膳150g (50円)
◎味噌汁・・・某有名メーカーインスタント1食 (18円)
◎豆腐・・・・1/4丁 (15円)
◎お浸し・漬物・・適量 (20円)
◎切り鮭・・・業務用1切 (90円)
◎野菜煮物・・1皿 (50円)
◎調味料・・・ (20円)
★合計 263円です。
500円で提供すれば、粗利益は47.4%しかとれません。駅ナカとか大勢のお客様が出入りする立地ならば、粗利益と関係のない固定費(地代家賃、人件費、水道光熱費)の1食当たりコストが減りますのでアリですが、個人の平凡な飲食店の場合は埒のあかない結果になってしまいます。
では、粗利益を7割(原価が3割)に設定しようとすれば、どうしたらよいでしょう。設定価格は877円になります。
じゃあ、880円くらいに設定しておけばいいですね。
な、わけないです。
上のイラストの定食に、あなたは果たして880円も払いますか?ランチでですよ?
880円。腕のいい料理人さんなら、もっとおしゃれで美味しいランチを作ってくれるでしょう。給食っぽい上の定食では、飲食業界の激しい競争を勝ち残れるか疑問です。
こうした問題にぶち当たった場合、経営者は2つの方向性を考えます。
ひとつは、粗利益率(原価率)をぎりぎりまで妥協するやり方です。例えば、原価以外の諸経費を賄えるのが、粗利益率60%(原価率40%)だとします。
その場合、設定価格は660円になります。まあまあこれならお客さんも来てくれるかもしれませんね。
もしくは粗利益率65%(原価率35%)の750円に設定して、ごはん、味噌汁はおかわり自由とするのもアリでしょう。
ただし、気を付けないといけないのは、例えば660円で設定した場合、利益は397円しかありません。
もし、接客係を時給800円で契約していた場合、1時間に2食は販売しなければ合わないことになります。1食当たりの光熱費も勘案する必要があります。
そうすると、他の商品がないとしてランチタイム3時間(11:00-14:00)のうち、10食売ってようやく1400円の利益が出ることになります。
3時間1400円ですよ!時間当たり466円の利益しか出ない。バイト君の時給の半分ですし、とてもいい商売とは思えませんね。
ですから、もっと回転率をアップして、例えば5倍の売上33,000円に到達すれば、
16750円の利益に増えるわけです。
この場合、バイト君に鞭打って時間内の労働効率を高めるので、人件費はさっきと一緒。光熱費も、水道代とガス代は食数に比例して増えますが、電気代は稼働しっぱなしの照明や冷蔵庫の分は一定のため、伸びが鈍くなります。
結論として、客単価を抑えなければいけないランチメニューなどは、いかに客数を増やすかがすべてです。また、いかに能率の良いバイト君を雇えるかもカギになります。
しかし、客数が増えることを前提に営業するのはギャンブルですし、このご時世、良い人材が集まるかと言うと、やはりそれなりの時給で遇さないと集まらないのも現実です。
そこで次にもう一つの方向性。
最初から客数は見込まずに、客単価をちょっと上げて、さらに粗利益も上げるという魔法(?)のワザについて考えていきましょう。
先程は、ランチにちょっと家庭料理っぽいメニューを投入していましたが、これをカレーに変更したらどうなるでしょうか?
◎ごはん・・・1膳260g (87円)
◎カレー・・・業務用ルー (40円)
◎鶏もも肉・・業務用30g×4切 (27円)
◎野菜類・・・タマネギ、人参、ひき肉(80円)
◎調味料類・・市販調合(50円)
★合計 284円です。
先程の定食は粗利益率60%(原価率40%)の660円で計算しましたが、今回はちょっと引き上げて、粗利益率65%(原価率35%)の800円で設定します。
野菜ゴロゴロ・チキンカレーに800円。まあ払ってもいいかな、と言う感じではないでしょうか。
ちなみに、このチキンカレーをコーヒー1杯無料付き(こだわりコーヒー豆を使えば高くなりますが、安いものだと10円くらいで済みます)にしても、粗利益率63.3%(原価率36.7%)なので、よりお得感を出すにはそういうサービスの仕方も良いかもしれません。
ただし、カレーはすぐに作れるものではなく、あらかじめ何人分か煮込んでおかなければならないので、お客様の当てが外れたらそれだけフードロスになります。
また、まかり間違っても業務用カレールーだけで作ってしまったら味が平板になるので、そこは店主の腕の見せ所。野菜のうま味、調合する調味料の加減などにはプロの目と試作回数が必要になるでしょう。
飲食店て、本当に難しいですね。