今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑩
まとめ - 怖さを知って飲食店を開業する
さて、導入部から足掛け10回で、脱サラ開業を目指す方向けに、飲食店営業の難しさを各種指標を用いて説明して参りましたが、いかがだったでしょうか。
うるせーコノヤロー(# ゚Д゚)と思われた方もいらっしゃったでしょうが、ひとまず数字による飲食店営業のイロハはお分かり頂けたかと思います。
もし私の拙文を読んでみられて、実際に脱サラして飲食店を開業したい、もうちょっと深く経営のことについて知りたいと思われた方向けには、引き続き「飲食店を助けるイロハ」という次のテーマをご案内していきたいと思います。
ここまでお読みくださって、ありがとうございました。
今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑨
決算書から見る経営の成功と失敗 - 04.人件費の二つの顔
前章で、人件費は売上原価でもあり、販管費でもあると述べました。
これについては、「?」な方も多いでしょう。
ただし、高校や大学で「工業簿記」を学ばれた方なら、私が申していることは多少理解頂いているかもしれません。
工業簿記の考え方では、生産現場と事務現場の経費を完全に分けます。
例えば縫製工場では、材料の布は製造原価という項目に入れ込みます。製造原価は売上原価と同じと思って頂いて結構です。そして、縫製にあたる労働者の給与、工場の水道光熱費は、事務員の給与、事務所の水道光熱費から切り離し、この製造原価に入れるという手続きを取ります。
ですから、同じ社内の人件費でも、工場労働者の給料は製造原価に、事務員の給料は販管費に振り分けるという結果になるわけです。
工業簿記を採用する製造業は非常にシビアなので(でなければ倒産してしまいます)、単に材料原価だけでなく、その商品を生産するのに投じたすべてのソース(人件費、経費)を漏れなくコスト化するのが大原則です。
それにより、モノ1個当たりの利益や生産性と言ったものが、より正確に測れるようになります。
さて、こういう経理の考え方は今まで製造業で行われていましたが、最近では飲食サービス業でも採り入れられるようになりました。
しかし、実際は工場のように部門が分かれているわけではありませんし、人員もせいぜい5人未満です。よって、一般にFLコスト計算式というものが用いられます。
難しく感じるでしょうが、FLコストは簡単に言えばF=food(原価、材料費)とL=Labor(人件費)を足した費用ということです。
これを売上高で割ったものがFL比率。
いくら仕入れ値が安く、粗利益率が良くても人件費が垂れ流しになっていたら赤字になってしまいますから、堅実な経営を志す場合はFL比率を常に計算できるようにしておいたほうが良いでしょう。
なお、前章までに何度か、原価率は30%前後に抑えてねと言いましたが、人件費は20%以下が望ましく、結果、FL比率は50%前後に抑えるのが理想的と言われています。
例えばカレー1杯900円のコストが250円だとします。これがある日、3時間で10杯、9,000円売れました。その間、時給800円のバイト君1人がしゃかりきに働いてくれたとします。
とした場合、FLコストは
F=250×10=2,500 L=800×3=2,400 F+L=4,900
FL比率は54.4%となります。まあまあといったところでしょうか。
ただし細かく見ると、原価率は27.7%と良い数字なのですが、人件費率が26.6%とお高め。じゃあ調整しようか、ということになっても、コストカットできる仕入と違い、最低賃金の問題や集客の不確実性もありますので、なかなか打つ手は少ないと思います。
こういったことから、近年ではなるべく機械化を進めて人員を抑制し、レイバーコストを圧縮しようという動きがみられるようになりました。
例えば、券売機の設置。客席にオーダー用タブレットを置くことにより、注文聞きの人員を減らす。自動調理機の導入で厨房の人員を減らすなどの取り組みが行われたりしています。
こうした取り組みは今後、豊富な資金力を持つ大手チェーン店が積極的に行い、AI導入=人件費の削減がスタンダードになってくることでしょう。そうなれば、我々の想像をはるかに超えて飲食店の環境変化が起こると思います。
一方で、中小零細店にはそのような設備を導入する資金的余力は乏しいですし、また店主と店員さんの魅力、活気が集客の源になっている場合もあります。
ですから、FLコストに敏感になりながらも、中小ならではの細やかな創意工夫でこれまでどおりのスタイルを貫くというのも、私はアリかなと思っています。
ただどうしても、設備の導入をしなくてはいけないという場合は、国の補助金もありますから、活用してみられるのも良いかもしれません。ただし、申請のハードルは高く、仕事の傍らに書類に取り組むのは困難なため、企画・作成は専門のコンサルタントに依頼される方が良いでしょう。
今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑧
決算書から見る経営の成功と失敗 - 03.販管費を設定する
前章までは粗利益と売上の関係を考え、経営の成功例と失敗例を見てきましたが、その際に人件費と光熱費の影響についても多少触れました。
上の青色申告決算書をご覧ください。下手なフリーハンドで囲っている部分がありますが、人件費にあたる給与賃金のほか、水道光熱費や修繕費、あとサラリーマンにはあまり聞きなじみのない減価償却費といったものが記載されています。
これら費目のことを総称して「販売費および一般管理費」、略して販管費と呼びます。
では、販管費と粗利益を計算するために必要な「売上原価」とはどこが違うのかというと、販管費はお客様に提供する商品・サービスと直接関係しない経費。そんなイメージを持って頂ければ良いかと思います。
例えば、あなたがカレー屋さんにカレーを食べに行くとします。重要なのは、ルーや具材(野菜やお肉)の量や美味しさであって、お店の電気代や家賃は特にどうでもいいことです(照明が灯いていないとか外で食べさせられたとか言う非現実的な想定はナシにしてくださいね)。
このルーや具材を仕入れるために必要な費用。すなわち、これがないと商売が始まらないモノにかける経費が「売上原価」です。
一方で、お客様に提供するものではないが、お店の経営そのものを維持するために、先ほど書いた電気代や家賃を支払わないわけにはいきません。こうした経費が「販管費」に入ります。
ちなみに、下が「販管費」の例です。
・水道光熱費 電気代、ガス代、水道代など
・通信費 電話代、インターネット料金、切手代など
・地代家賃 事務所、店舗の家賃、または駐車場代
・旅費交通費 営業活動で要した運賃、ガソリン代、宿泊費など
・接待交際費 営業活動で顧客に供した食事、贈答品、慶弔など
・減価償却費 使用している備品の価値の減少分を数値化したもの
なお、世の中のありとあらゆる商売の中には、「売上原価」がゼロに近い職業もあります。例えば「士」が付く方たち。弁護士さん、司法書士さん、税理士さんと言った方々。
こういった先生たちはご自身の能力を売り物にします。弁護士さんがラーメンの具材とか仕入れて商売したりしませんよね。私たちは「~士」さんの能力、成果に対して報酬を支払います。紙代とか僅かな仕入れはあるかもしれませんが、ほとんどが販管費支出になると思います。
こうした「士業」の方の他、理・美容師さん、請負大工さん、学習塾の方も同様に売上原価が低い業種と言われています。
ですから、そういった職業に比べると、製造業、小売業、卸売業、そしてこのブログが採り上げている飲食業は、売上原価も販管費も非常に大きい。いわば経営がキツい業種になります。
仕入価格を抑えることも重要ですが、それ以上に家賃や光熱費の管理には十分気を付けなければなりません。
脱サラ開業を目指されている方は、売上原価に販管費と、目の前に立ちはだかるものは本当に多いんだな!と実感されたと思います。
それだけ商売は厳しいのです。
さて、これまでの私の説明を聞いて、ひょっとしてあれっ?と思った方はいらっしゃいませんか。いらっしゃったら鋭いです。
そう、人件費!
「人件費」は売上原価なのか販管費なのか?
疑問を持たれた方は多いと思います。私もあえて書きませんでしたから。
せっかくなので、そんな勘の鋭い皆さんにお答えしましょう。正解は...。
「どちらでもある」です。
(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)
コラって感じでしょう。でもこれが正解なのです。
それについては、次の章でお話ししたいと思います。
果てしないカステラの旅 第6回 関西カステラの代表格 銀装
大阪の老舗カステラメーカーをごぞんじですか?
これまで私はカステラの紹介記事をダラダラと綴ってきましたが、それらはすべて長崎カステラを扱ったものでした。
カステラと言えば長崎。長崎と言えばカステラ。
ざっくり言って、九州では誰もが当たり前のようにそう思っています。
しかし、全国にはそんなことを言ってみた日にはぼろくそに怒られる地域もあります。
それは、意外ではありますが、大阪。
そう、大阪には独自のカステラ文化があるのです。
まあ、カステラなんてちょっとした設備投資をすればどうにか作ることはできますし、全国どこででも、スーパーの菓子売り場には地元のメーカーが焼いた個包装のカステラがごまんとあります。
ですから、大阪発のカステラがあっても特段珍しいことではないのですが、ただそれが地域ブランドとして、広範囲のデパートに出店し、贈答品にも選ばれているとなれば、話は変わってきます。
そう、そのカステラは、あくまで関西エリア限定ですが、長崎で言うところの福砂屋さんや文明堂さん並みのステータスを確立しているのです。
カステラメーカーの名前は、銀装(ぎんそう)。
1952(昭和27)年8月、浪花の商いの中心地・心斎橋で産声をあげた銀装は、翌53年、大阪南部の高石市に大規模なカステラ工場を開設。それまで日持ちの短かったカステラの弱点を克服するため、密封包装・熱殺菌の技術、いわゆる『紙の缶詰』の技術開発に成功し、一躍、世間の注目を浴びる企業になります。
この銀装の技術は、自社一社の成功にとどまらず、それまで日持ちしないのが当たり前であったカステラの賞味期限を飛躍的に伸ばし、高嶺の花から庶民の食べ物として一気に普及させるきっかけを作りました。
また現在、カステラは当たり前のようにカットされていますが、このカット販売に最初に取り組んだのも銀装。歴史や伝統ではとても長崎カステラにはかないませんが、庶民のお菓子「カステラ」に育てなおした会社として、銀装の功績はまことに大と言って良いでしょう。
なお、銀装のカステラは美しいグリーンの青箱、上品なピンクの赤箱の2種類があります。それらは「CASTE」というブランド名を持ち、新鮮な卵、高純度の白双目糖、特等小麦粉、蜂蜜、もち米水飴など。安心、安全にこだわった厳選した材料を使っています。
青箱はきめ細かで上品な甘み。赤箱は甘さ控えめでまろやかな口当たりが特徴です。
でも、ちょっとご注意がありまして、長崎カステラを日頃から召し上がっている方は、銀装は別のスイーツだと思って愉しんでください。
(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?(´・ω`・)エッ?
別に銀装さんを侮辱しているわけではありませんよ。というのは、銀装は大阪の庶民文化の中で徹底して長崎カステラとの差別化を図ってきた会社で、製法やポリシーが長崎カステラとはかなり違います。
長崎のじゅわっとして肉厚、ザラメをふんだんに盛り込んだカステラと同一視した場合、それは失望に変わってしまいます。
それよりも、大阪の歴史あるスイーツ。モダンで洗練された庶民のおやつとして召し上がった場合、それはそれは幸せな時間を過ごすことができるでしょう。夏なんてひんやり冷やして、紅茶やアイスコーヒーと頂くと、本当に美味しいですよ。
ちなみに、窯出しや切れ端も購入できる銀装の工場が、大阪府高石市の伽羅橋駅前(南海高師浜線)を降りてすぐのところにあります。最近、駅前周辺はすっかり寂れてしましましたが、明治時代から要人などが屋敷を構える高級住宅街だったこともあり、どことなく街に気品が漂います。
歴史ある難読駅ですが駅前は・・南海高師浜線 伽羅橋駅 Nankai TakashinohamaLine KyarabashiStation
工場の目の前に、カフェラサールという喫茶店がありまして、そこでは銀装カステラ、焼き菓子、プリン、贈答品はもちろんのこと、生産の過程で発生する切れ端がとてもお安く買い求められます。
当然ですが喫茶店ですので、銀装特製カレーや窯出しカステラを美味しいコーヒーと頂くことができますので、ぜひ一度訪れてみてください。
今から飲食店の経営にチャレンジしたい方へ⑦
決算書から見る経営の成功と失敗 - 02.粗利益と経営の成功事例
(イ)粗利益(売上総利益)= 売上高 - 仕入高(期首商品+当期仕入高-期末商品)
(ロ)粗利益率 = (売上高-仕入高)÷ 売上高 × 100(%)
前章では(イ)の粗利益について見ましたが、今回は(ロ)の粗利益率について考えます。
粗利益率は、経営上とても大切な概念です。これを疎かにすれば、常に経営は赤字体質になりますし、あまりとらわれすぎるとお客様から支持されない店になります。
それだけ難しい概念ですが、何はともあれ、一例を挙げて見ていきましょう。
上は適当にお借りしてきたイラストです。見たままで上の定食の原価をはじいてみます。
◎ごはん・・・1膳150g (50円)
◎味噌汁・・・某有名メーカーインスタント1食 (18円)
◎豆腐・・・・1/4丁 (15円)
◎お浸し・漬物・・適量 (20円)
◎切り鮭・・・業務用1切 (90円)
◎野菜煮物・・1皿 (50円)
◎調味料・・・ (20円)
★合計 263円です。
500円で提供すれば、粗利益は47.4%しかとれません。駅ナカとか大勢のお客様が出入りする立地ならば、粗利益と関係のない固定費(地代家賃、人件費、水道光熱費)の1食当たりコストが減りますのでアリですが、個人の平凡な飲食店の場合は埒のあかない結果になってしまいます。
では、粗利益を7割(原価が3割)に設定しようとすれば、どうしたらよいでしょう。設定価格は877円になります。
じゃあ、880円くらいに設定しておけばいいですね。
な、わけないです。
上のイラストの定食に、あなたは果たして880円も払いますか?ランチでですよ?
880円。腕のいい料理人さんなら、もっとおしゃれで美味しいランチを作ってくれるでしょう。給食っぽい上の定食では、飲食業界の激しい競争を勝ち残れるか疑問です。
こうした問題にぶち当たった場合、経営者は2つの方向性を考えます。
ひとつは、粗利益率(原価率)をぎりぎりまで妥協するやり方です。例えば、原価以外の諸経費を賄えるのが、粗利益率60%(原価率40%)だとします。
その場合、設定価格は660円になります。まあまあこれならお客さんも来てくれるかもしれませんね。
もしくは粗利益率65%(原価率35%)の750円に設定して、ごはん、味噌汁はおかわり自由とするのもアリでしょう。
ただし、気を付けないといけないのは、例えば660円で設定した場合、利益は397円しかありません。
もし、接客係を時給800円で契約していた場合、1時間に2食は販売しなければ合わないことになります。1食当たりの光熱費も勘案する必要があります。
そうすると、他の商品がないとしてランチタイム3時間(11:00-14:00)のうち、10食売ってようやく1400円の利益が出ることになります。
3時間1400円ですよ!時間当たり466円の利益しか出ない。バイト君の時給の半分ですし、とてもいい商売とは思えませんね。
ですから、もっと回転率をアップして、例えば5倍の売上33,000円に到達すれば、
16750円の利益に増えるわけです。
この場合、バイト君に鞭打って時間内の労働効率を高めるので、人件費はさっきと一緒。光熱費も、水道代とガス代は食数に比例して増えますが、電気代は稼働しっぱなしの照明や冷蔵庫の分は一定のため、伸びが鈍くなります。
結論として、客単価を抑えなければいけないランチメニューなどは、いかに客数を増やすかがすべてです。また、いかに能率の良いバイト君を雇えるかもカギになります。
しかし、客数が増えることを前提に営業するのはギャンブルですし、このご時世、良い人材が集まるかと言うと、やはりそれなりの時給で遇さないと集まらないのも現実です。
そこで次にもう一つの方向性。
最初から客数は見込まずに、客単価をちょっと上げて、さらに粗利益も上げるという魔法(?)のワザについて考えていきましょう。
先程は、ランチにちょっと家庭料理っぽいメニューを投入していましたが、これをカレーに変更したらどうなるでしょうか?
◎ごはん・・・1膳260g (87円)
◎カレー・・・業務用ルー (40円)
◎鶏もも肉・・業務用30g×4切 (27円)
◎野菜類・・・タマネギ、人参、ひき肉(80円)
◎調味料類・・市販調合(50円)
★合計 284円です。
先程の定食は粗利益率60%(原価率40%)の660円で計算しましたが、今回はちょっと引き上げて、粗利益率65%(原価率35%)の800円で設定します。
野菜ゴロゴロ・チキンカレーに800円。まあ払ってもいいかな、と言う感じではないでしょうか。
ちなみに、このチキンカレーをコーヒー1杯無料付き(こだわりコーヒー豆を使えば高くなりますが、安いものだと10円くらいで済みます)にしても、粗利益率63.3%(原価率36.7%)なので、よりお得感を出すにはそういうサービスの仕方も良いかもしれません。
ただし、カレーはすぐに作れるものではなく、あらかじめ何人分か煮込んでおかなければならないので、お客様の当てが外れたらそれだけフードロスになります。
また、まかり間違っても業務用カレールーだけで作ってしまったら味が平板になるので、そこは店主の腕の見せ所。野菜のうま味、調合する調味料の加減などにはプロの目と試作回数が必要になるでしょう。
飲食店て、本当に難しいですね。