太郎雑記

つれづれなるままに、よろずのことについて語ります

アサヒの苦闘と栄光への転換 ~空前のヒット作 スーパードライの誕生まで~

日本で一番売れているビールってご存知ですか?

そう、「アサヒスーパードライ」です。

デビューから2017年までの累計販売数はなんと37億箱!

しかし、この商品の誕生には、アサヒの血のにじむような苦労があったんです(/・ω・)/

 

アサヒスーパードライ [ 135ml×24本 ]
 

日本がいよいよバブル景気に突入しようとしていた1987年、日本4大ビールメーカーの一つ、アサヒビールは大変な苦境に陥っていました。

当時はキリンビールの独壇場。麒麟印の瓶ビールが日本の食卓を席巻していました。さらにウイスキーメーカーのサントリーがビール市場において躍進し、椎名誠の「すごい男の唄」のCM、サントリーホールのオープンを筆頭とする強大な広告費の投入により猛追。また、サッポロビールは居酒屋・外食など足場をマイペースに固める戦略で万全でした。

 


サントリービール 椎名誠

 

そんな中、とりわけ個性に乏しく、ヒット商品の開発にあえいでいたアサヒは経営的にも迷走し、売却も検討される苦境であったと言います。そこでアサヒの支援を行っていた当時の住友銀行は、次々と再建請負人を同社に送り込みました。

そのうち村井勉は、1984年夏から1985年夏にかけて東京と大阪の2都市で大規模な調査を行います。そこで彼は、若い消費者が苦みだけではなく、口に含んだときの味わい(コク)と喉ごしの快さ(キレ)を求めていることを突き止めます。

たしかに、私が幼い頃に父親が飲んでいたキリンビールは苦く、ズシンと来るような重さがあったように記憶しています(ほんの一口ですよ、時効です笑)。

それを、現在のスーパードライのようなライトな味覚に変えて行くべしと看破し、実行に移した村井はすごいと思います。

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次にやってきた樋口廣太郎は、上の結果からコクキレに重心を置いて開発した新商品「アサヒ生ビール」のプロモーションに懸命に取り組み、売上を回復。さらに樋口は「アサヒ生ビール」のコンセプトを究極にまで磨き上げ、1987年1月21日、「アサヒ スーパードライ」として発表。これが空前の大ヒット、アサヒの大逆転を生み出したのです。

 

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当初、アサヒは自信を漲らせながらも、市場での売上計画は慎重であったと言います。しかし、これが空前のヒットとなり、酒屋や飲食店からは注文が殺到。1987年の販売数量実績は1350万箱を達成しました。

デザインも受けたんですね。

あのメタリックな色のラベルとシャープなAsahiのロゴ。そしてCMで渋い男性の声で呟かれる「アサヒ スーパー ドラーイ」の印象的な言い回し。

 

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全てが戦略的に洗練されていました。

やはり、村井や樋口をはじめとする、当時のアサヒ社員の熱意とやるぞ!という意気込みは尋常じゃなかったのだな、と感心します。

そしてもうそこからはうなぎのぼりです。スーパードライは年間1億箱が売れるというお化け商品になり、店頭だけでなく、飲食店でも一人勝ち。突き放されたキリンやサントリーが、打倒アサヒに燃えるという、今までとは逆の構造になりました。

 

それから30年近くが経過。 

2010年代も終わりに近づき、漸くキリンが旧来のビールのうまさを引き出した良い商品を連発し、サントリープレミアムモルツ経営資源を集中するなど、アサヒ帝国を良い意味で脅かす状況が生まれてきましたが、まだまだスーパードライの覇権はゆるぎないものとみて良いでしょう。

 

ところで、スーパードライはなぜ、こんなにも長い間支持されているのでしょうか?

これはあくまで私見ですが、やはりあの飲み口の軽さに最大のセールスポイントがあるように思えます。

アサヒはそれを「辛口」と呼びました。そしてドライビールなる新領域をつくりあげたのです。

ちなみにヨーロッパで育まれてきた本場のビール文化に、「辛口」とか「ドライ」などというカテゴリはありません。

例えば、ドイツには「ビール純粋令」なるものが伝わっており、古くは麦芽・ホップ・水以外の原料を用いてはならぬ、とされていました。今ではそんなルールはありませんが、それでも多くのビール会社がこの製法を守り続けている、と言います。

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逆に、良質なホップに恵まれないベルギーなどでは、芳醇な果物などを代替品に使って、日本ではあまり馴染みのない果実酒のようなビールの文化を発展させてきました。

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それでは日本のビール会社はどうかと言いますと、麦芽・ホップ・水の他に、副原料として米とコーンスターチを加えるのが一般的と言われています。日本は蒸し暑い気候のため、すっきりとした味わいが好まれます(これは先述の村井の調査にもはっきり表れていましたね)。そこで、コーンスターチのような糖質を活用し、飲みやすく爽やかな味わいのビールを市場に浸透させてきたのです。

 

アサヒスーパードライは、このコーンスターチや米といった副原料の割合を高め、麦芽とホップの割合をギリギリまで減らしてできた商品です。それにより、80年代前半までにはなかった味わいが誕生し、それが「ドライ」や「辛口」といった比喩により、表現されたわけです。

語弊があるといけませんが、このように麦芽の比率を下げて作ったビールは、税法的には発泡酒と呼ばれます。ドライは、発泡酒にカテゴライズされるギリギリのラインまで麦芽比率を下げ、しかしビールのキリっとした味わいは残して商品化しています。

のちに発泡酒ブームがやってきた時、あまり味に違いが出ないのではないかと懸念したアサヒは、「スーパードライ1本でやっていきます」と宣言したくらいです。

しかし、「スーパードライ」は日本を代表するビールとしてその地位を確立し、発泡酒と競うような事態にも陥らず、現在最も売れているビールとして君臨しています。

今後アサヒが、スーパードライをどのように未来へ向かってマーケティングしていくか、大いに楽しみなところです。